西成のおっさんと漫才した話【前編】

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西成のおっさんと漫才した話【前編】

その日は寒かった。

僕は眠い目をこすりながら朝6時に西成の街を歩いていた。

すると「寒いなあ」と死角から声をかけられた。

「寒いですねえ」

返事をして 振り向くと、シャッターの前に西成のおっさんが立っていた。

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「西成」

大阪の人間は聞いただけでどういう街かわかると思うが、分からない人のために説明する。

「ピーターパン」という物語の中に「ネバーランド」という子供だけの国が登場する。ネバーランドにいる間は子供のまま歳をとらない。妖精や人魚もいる夢と不思議に満ち溢れたおとぎの国である。

その逆である。

西成はおっさんだけの村であり、西成にいる間はおっさんがどんどん老ける。妖精や人魚が見えるおっさんもいるが、そういうおっさんは後日逮捕される。現実と終焉の行き止まりの国である。

子供の頃はよく西成には行くなと親から言われた。しかし、決して危ないおっさんばかりではない、むしろ面白い人がいっぱいいる。

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僕に声をかけてきたのも、まさに西成のおっさん的な西成のおっさんであった。

4本しかない歯からはよだれが垂れて、ジャンパーのシワにできた溝に水たまりができていた。

「寒いですねぇ」

そう答えた僕はここが西成だったことを思い出して少し後悔したが

そのおっさんは目が比較的大丈夫そうだった。

おっさんは返事してくれたことに機嫌を良くしたのか、笑顔で続けた

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質問の意味が分からずおっさんをよく観察すると、おっさんは手に缶チューハイを持っていて、足元には壊れたヒーターがあった。店がゴミとして置いているものだろう。

僕が黙っていると、おっさんが続けた

「これな、このヒーター壊れてるやろ。でもな、ヒーターついてると思ったら不思議とあったかくなってくんねん。精神や。精神が大事なんや。」

「精神ですか、すごいですね」

おっさんは壊れたヒーターを壊れてないと思いこんで精神論で温まっているようだ。なんとも想像力の豊かなおっさんだ。

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おっさんはポケットから小銭を出してきた。

まさか奢ってもらうことになるとは思っていなかったので僕は全力で断ったが、無理やり120円を渡され、「これで缶コーヒー買え」と背中を押された。

多分このおっさんにとっての120円は僕にとっての820円ぐらいだろう。

このおっさんが悪者ではないことは十分わかった。

おっさんと呼び続けるのも忍びないので「渋沢さん」としておく。

そのまま渋沢さんと僕は約1時間シャッターの前で話していた。

話していた、といっても渋沢さんは口元が緩いせいか何を言ってるかがマジで分からず、部分部分で聞き取ってなんとか理解していた。

たまにクイズを出してくるのだが、問題文が分からないので答えようがなかった。

それはまるでTOEICみたいだった。

話の中で渋沢さんはしきりに

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と、税務署と警察を目の敵にしていた。

誰もいない道で信号無視したら警察に止められ、警察の一言目が「前科あるんか。」だったらしく、人を見かけで判断しているとブチギレたらしい。

政治にもやたら詳しく

「蛍の光は実は4番まであるが、3番と4番が政治のことを歌われているため削除されている」

と聞いたことのないうんちくを披露されたので、iPhoneを開いて詳細を調べていると、

「おーぉなんやそれ(iPhone)。そんなん出るんかいな」

と驚いていた。

渋沢さんはiPhoneを知らないらしかった。

話が盛り上がり、渋沢さんは

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とまさかの発言。

家あったんや!!!

いや、家ないと決めつけていたのは失礼だが、家あるならなぜこんな壊れたヒーターの前でたたずんでいたのだろう。

本当に家に行っていいのか。

小さい頃に学校で言われた

「知らないおじさんについて行ってはいけないよ」の究極版だが、もう大人だし、好奇心に勝てなかった。

「おじゃまします」

僕は歩いて3分のところにある、ボロいアパートに一緒に入って行った。

「ぉうぶっっ!」

扉を開けた瞬間、放置され続けたおしっこ布団のような酸っぱい刺激臭が立ち込めた。臭すぎる!

しかも足元は踏み場がないほど物に溢れている。

とりあえず電気をつけて、足元の安全を確保したいのだが、渋沢さんはいっこうに電気をつけない。

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まじか!!

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ここでも精神論か!!

こうして僕は渋沢さんと真っ暗な部屋で話すことになった。

家に入ってからも渋沢さんは相変わらず何を言っているかよく分からなかったが、音楽の話をしていて、「あの歌はええ歌や」としきりに繰り返していた。

どんな歌か知りたくなった僕はYouTubeで調べて再生した。

部屋に歌声が響き渡った瞬間、渋沢さんは「なんや!?」と驚いて

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そんな訳ない。

渋沢さんはiPhoneを知らなかった。

あんなに喋り続けていた渋沢さんが、黙って目を閉じて音楽を聴いていた。

聴きたいときに聴きたい音楽が聴けるって幸せなことなんだな。と僕は思った。

その後、渋沢さんは僕がお笑いをやっているというのを聞いて

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と雑なリクエストを飛ばしてきた。

仕方ないので自分なりのスベらない話を四つ披露したが、話を聞いている間中、ずっと首を横にかしげていた。

自分の中のお笑いHPが真っ赤に点滅してきた。

「お前は真面目すぎるんや。やすしきよしの西川きよしや。お前には横山やすしが必要や!」

結構的確なことを言われてる気がして、このままではやられると思った僕は反撃に出た。

「それなら渋沢さん横山やすしになってくださいよ!」

「ぁあー〜?」

「一緒に漫才やってくださいよ。」

「そんなもん簡単やがな。わしが漫才やったら三角公園のやつら100人から300人から集まるぞ!」

「即興でできますか?」

「あったりまえや。じゃあここを三角公園やとしよう。んでこのトイレが客や、300人の前で漫才やぞ」

「じゃあやりますよ!」

そうして俺と渋沢さんがした漫才がこれである。

宗教と政治と西成感満載の謎の漫才になった。

何より驚くべきことは、まさかのおっさんがツッコミだということだ。絶対おかしいのはおっさんの方なのに。

時間は朝の10時になろうとしている。

漫才もできて満足した俺は、さすがに帰ろうと思っていたが、おっさんがここで衝撃の発言をした。

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後半に続く

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